急激に現実味を帯びてきた?9月入学案!メディアでは首長など影響力のある方々が『子どもたちの学習進度を9月で合わし、世界の標準にも合わし、やるならば今だ!』というような主張をされていますが、もしもこの9月から導入されようものならば、現場や関係各所の混乱は必至です・・・。今日は小学校教員の立場で懸念されることなどを書いていきます。
目次
日本が4月入学になった歴史的背景
前回の記事でも書きましたが、明治時代の1872年に最初に「学制」が公布されたときは、欧米に合わせて9月入学とされていたそうです。おそらくこれは欧米から多くの学者を招いていたなどの事情が背景になっています。
そのような中、1886年に固まった官公庁の「会計年度」が、年度を4月始まりに定めました。そしてその官公庁の「会計年度」にあわせて、学校や企業の年度も次第に4月始まりになっていき、1921年に統一された、という経緯があるようです。ですから、かれこれ4月入学制度が導入されて100年の歴史があるということですね。この歴史ある慣例を変えていこうと今動き始めているわけですね。
9月から小学校が開始されたら起こりうること
ここからは、職場の人間とも話していたり、自分自身が9月入学制度導入に対して思う素朴な疑問や変化するであろう点について述べていきます。
子どもの月齢問題
現行制度では、4月2日生まれ~翌年4月1日生まれまでが同学年というくくりになっています。このまま制度をスライドするとなると9月入学になれば1学年の構成児童は9月2日生まれ~翌年9月1日生まれの児童ということになる?のでしょうか。次年度以降に導入されるのであれば何とかなるかもしれませんが、もしもこの9月から導入されたらこの四月に入学した新1年生はどのような扱いになるのかが謎です・・・。さらに、仮に来年9月から導入されるとすれば、今の幼稚園、保育園の年長さんたちは半年長く幼稚園や保育園に通うなどの調整が入るのでしょうかね・・・。
教科書の配列を変えないといけない問題
今年から小学校では新学習指導要領で動き出しています。この学習指導要領改訂に伴って、今年度より教科書が各教科書会社により刷新されています。算数や社会の教科書はまだマシかもしれませんが、他教科では4月始まりを基本に構成されているので、国語では冒頭から春に関する詩や文章、生活科や理科では春の植物や栽培関係などが一般的です。もしもこの9月からであれば変更の対応は不可能ですし、来年度に導入されるとなると各教科書会社さんは内容の配列を変更する必要が出てくると思われます。ちなみに教科書発刊には内容を変えたりする場合に、著作権の許諾などすぐに動けない問題もあるので中々厳しい状況かと・・・。
年間スケジュールがこれまでの慣例と随分変わる問題
情報が出ていないのでどうなるのか(3学期制?2学期制?)はわかりませんが、従来通り3学期制で進むのであればおそらくこのようなスケジュールになります。
9月入学で3学期制の場合
・1学期:9月1日頃~12月24日頃
・2学期:1月8日頃~3月24日頃
・3学期:4月6日頃~7月20日頃
こちらについては、100年近く続く慣例が体に染みついているため、桜の季節に卒業式や入学式があり新年度がスタートするのが当たり前でしたが、世界的に見ればそれは少数であり、始まってしまえば夏休み後に新年度開始というのは案外慣れてしまうのかもしれません。
小学校の入学試験はいつやるんだ問題
公立の小学校の場合はあまり関係ありませんが、私が所属している国立や私立の小学校はいわゆる『お受験』を受けて入学することになります。現状は関東でも関西でも9月から10月ごろに実施されていますが、これも変わってくることになります。そのままスライドするならば、3月から4月くらいに入学試験をすることになります。これについては、保護者、幼児、国立・私立小学校、幼児塾、お受験情報サイトなどに大きな影響があります。いくつか書いてみると・・・
保護者と幼児
⇒3月受験となれば、モチベーションを保ち続けなければならない。
⇒そもそも早く決定してくれないと不安!今年の年長さんは9月受験で調整してきているはず。
国立・私立小学校
⇒入試広報用ポスター、リーフレット、学校案内等の日付掲載品は回収し、修正か新調が必要
⇒従来の9月入試時よりも3月では幼児の発達段階が向上しているため、入試問題を変更
⇒入試日程の調整
幼児塾
⇒イベントスケジュールの変更(現時点でもコロナで軒並み中止イベントが多い)
⇒幼児指導カリキュラムの再考
お受験情報サイト
⇒受験情報の改めての全体把握と記載事項修正
⇒新パンフレット、新ポスター等の仕訳と配布
中学入試はいつやるんだ問題
公立・国立・私立の小学生でも中学入試を受ける子たちは一定数おり、現状は年明けから2月いっぱいくらいの期間で中学入試が行われています。このままの形でスライドされるとすれば、6月~7月くらいに実施されることになるということですかね。メディアでは『センター試験や大学入試などが冬の寒い時にやっているのがこれまでおかしかった』と言っている人がいましたが、今の日本は6月は梅雨、7月は梅雨が明けて初夏の陽気ですが、これはいいということなのでしょうか。季節的な問題はいつやっても付きまといますね。
秋季の運動会は準備が間に合わない問題
最近は運動会の春開催や、運動会不要論などもありますが、秋(10月ごろ)に運動会をやっている学校もまだまだあるのが現状。やってみないとわからないところはありますが、入学したての1年生が1か月後に運動会で立派に動けている姿を見せるのはおそらく厳しいです。小学校1年生は入学当初は学校に慣れることが最優先ですから、他学年のように始業式翌日からいきなり通常授業みたいなことはできません。従来秋に運動会を開催していた学校であれば、2学期初頭から体育大会練習が始まるはずです。10月実施の運動会はこれまでとやり方を変えなければ実施は難しいかと思われます。
学力格差の是正にそもそも効果があるのか問題
全国各地でこの休校期間で発生した学力格差を、9月入学にすることでその不安を払拭するという賛成派の意見があります。確かに、9月入学にしない場合はこの年度内にその学年ですべきことをこなす必要があるので”今なにもやっていない学校”はかなりのハイペースでこなしていかなければいけないと回復は難しいことかと思います。でも、各学校や自治体からの指示でオンライン授業をしている学校もあれば、プリントなどの課題などを与えられて、苦しいながらも子供たちは学びを進めている現状もあります。その少しでも学習を進めている子どもたちをまた9月から初めに戻って学習させるのでしょうか?それであれば、通常通り進めて、学習がしんどい子などを補習するなり手厚く指導してあげる方が負担も少ないように思います。
あと、今日のニュースで小学校によっては休校開始からこんなに時間が経過しているのに『漢字が1文字も進められていない』『単元が1つも進んでいない』などと嘆く現場の声が取り上げられていて耳を疑いました。同業ですけれど、そんな事態を引き起こしているのはその学校や教育委員会の怠慢でしょう。逆にその先生方や学校はこの数カ月間一体何をしていてたのかなと思ってしまいますね。もしもお子様の学校がそのような対応であるならば、時間は待ってくれないのでご家庭で別建てて学習を進めることをおすすめします。
そこに現場の声はあるのかい?問題
今回の9月入学制度については、現場教員からするとまさに寝耳に水!コロナ対応、オンラインコンテンツ作成、ZOOMを使った児童とのやり取り、健康観察など、とにかくこれまでに経験をしたことのない状況を打破しようと奔走している毎日。そもそもいつ収束するかもわからない中、国民が出口のないトンネルを歩いている中、有識者といわれるような方々が口火を切り、国会でまで6月には方向性を示すという始末。6月に出された方向性がこの9月から導入だったら、現場は崩壊します・・・。
本日のまとめ
今思いつくままに少し書いてみましたが、本当にこの九月からの導入が決定されたら、もっともっと細かい部分の調整や変更が出てくることかと思います。でも現状は、『決まってもいない9月入学論』を考えている暇はなく、現行制度で進んだ場合での子どもたちの学力補償やコンテンツ作成など、目の前のことをとにかく解決していかなければなりません。私個人の意見としては、10万円給付やマスク配布ですら時間がかかっているのに、あとたった3カ月しかないこの時期に、大転換である9月入学をしようなどと考えられていること自体、狂気の沙汰だと思っています。先を見越した議論も必要なのかもしれませんが、今はICT機器の導入であったり、今できる教育の機会均等についての議論をしてもらいたいものです。
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